毎日・世論フォーラム
第313回
平成30年11月22日
自民党元幹事長 石破 茂

テーマ
「安倍内閣の課題と新時代の国政の行方」

会場:西鉄グランドホテル

日韓関係
「他の分野で協力を」

石破 茂 自民党元幹事長
石破 茂 氏

プロフィール

石破 茂
(いしば しげる)

1957年2月、鳥取県出身の61歳。79年3月、慶應義塾大学法学部卒業。86年の衆議院総選挙において、鳥取全県区から自民党公認で初当選した。以来、当選11回。02年に小泉内閣で防衛庁長官として初入閣。09年、自民党は民主党に敗れ下野。政権奪還すべく政務調査会長に就任、12年9月から幹事長に抜擢される。14年9月、初代の地方創生・国家戦略特別区域担当大臣に任命される。今年9月の自民党総裁選に立候補し敗れたが、『ポスト安倍』との次期自民党総裁有力候補と目される中、政権課題に対し踏み込んだ発言に注目が集まる。

 第313回例会は、自民党の石破茂元幹事長が「安倍内閣の課題と国政のゆくえ」と題し講演、会員170人が参加した。石破氏は。慰安婦問題に関する日韓合意に基づき設立された財団の解散発表や、元徴用工を巡る訴訟で悪化する日韓関係について「歴史問題で意見が一致しないため、他のことが全く前進しないのは良くない。急速な高齢化など互いに知恵を出す分野はたくさんあり、協力関係を強めなければならない」と述べた。また、北方領土問題については「ロシアにとってあの地域(北方四島)の重要性は安全保障の一環で極めて大きい」と指摘。来夏の参院選で争点の一つになるとの見通しを示した。講演要旨は次の通り。

 この国は、いくつもの課題を抱えております。第一は、恐ろしく人口が減ること。冗談抜きに、これから1年間で人口が100万人ずつ減る時代を迎えます。2100年には今の1億2700万人の人口が5200万人になると計算されています。これだけわずかな期間に人口が半分になるというのは、中世のヨーロッパでペストが大流行したとき以来であります。
 なんでこんなに人口が減るか。そもそも結婚する人が減った。これは若い方に所得が少ない方が多いことも大きな理由だと思っております。年収186万円以下の方がこの国には929万人おられます。そういう男性の独身率は66%。結婚する年齢もどんどん遅くなり、2人目、3人目はなかなか難しい時代になっております。
 日本人が5000万人を超えたのは明治の終わりでしたが、その頃は若い人が大勢いて高齢の人が少ない構成でしたが、これから迎えるのは若い人が少なくて高齢の方が多い5000万人です。どうやって医療、年金、介護を維持するか。我々は人類が誰も直面したことがない課題に直面することになります。
 今後の社会を維持をするにはGDPを伸ばしていかなければなりません。人口が急減する中でかつての高度経済成長はあり得ない。同じものを安くたくさん作るなら中国の方が得意。日本でしか作れないものを作っていかねばなりません。日本の食品、酒、伝統工芸、ブランド、ファッションがイタリア、フランスに勝てないか。そんなはずはないのであって、今後はいかに付加価値をつけるかが大事になります。
 福岡ってところは、新しいことをやることに対し、いろんな応援をしてくださるスタートアップ事業というものを持っておられます。いかにして付加価値を上げて経済を回していくかということが、この福岡の真骨頂であって、私どもはそれに学んでいきたいなという風に考えているところであります。
 今後の日米関係も今までのようにはまいりません。トランプさんが大統領になった時に、ある財界人に「トランプさんはサスペンスとディールの大統領だから気をつけろよ」と言われました。ハラハラドキドキ、何が起こるか分からない。
 歴代大統領は、同盟国を大事にしてまいりました。だけども、トランプ大統領は、NATOに向かってもっと金を払えよって話をするわけですよ。日本に対しても、もっとアメリカの武器を買えよってことを言うわけです。そしてアメリカ市民諸君、これで君たちに雇用と所得が回るのだ、みたいなことを言われると、日本の納税者はどうなるのだということを考えていかねばならなくなります。
 北方領土を巡ってもいろんな議論がございます。2島で良いではないか論。いやいや、4島は固有の領土であり、ちっちゃな島一つでも失う国はやがて領土を全て失うんだという論。私どもは後者のように教わってまいりました。だから、4島一括返還ということを今まで言ってきた。
 平和条約は領土問題が全て片付き、両国の間には何ら問題が存在しないということであり、2島返還でそんなことはありえないというのが今までの考え方です。総理もその方針に違いはないとおっしゃっておられます。他方で固有の領土かどうかは関係なく、あれは戦争によってソ連が手に入れたものであるという話もある。このお話は、極めて難しいことだと思っています。
 最後に安倍内閣の課題ということで申し上げれば、来年7月には参議院選挙がございます。かなり厳しい状況の中で、わが党は勝っていかねばならない。しかし、参議院は政権選択選挙ではなく、政策が問われることになると思います。今の北方領土をどうするか。憲法についてどう考えるか。金融財政政策をどう考えるか。東京一極集中をどのように止めるか。外国人労働者の受け入れをどうするかなどを議論していかなければならない。
 憲法9条をどうするかで言えば、日本には陸海空軍もなければ、戦力もなければ、交戦権もないというのが、憲法の仕組みでございます。しかし、自衛権というものは憲法以前の国家固有の権利で、憲法にどう書いてあろうが自衛隊を保持しなければいけないと今まで答弁してまいりました。しかし、それはおかしいだろうということで、9条に自衛隊を明記しょうということが言われています。
 しかし、それでも自衛隊は陸海空軍じゃないのか、戦力じゃないのかという問題は依然として残ります。必要最少限度だから戦力じゃない。戦力じゃないから陸海空軍じゃない。本当にその理屈のままでいいのですかって議論は、もっと突き詰めなければいけないものだと思います。
 いつの時代も国を変えるのは都や権力者ではなく、地方であり民衆の知恵であります。福岡は最先端の新しい日本を作ろうとしている。我々はその思いに学び、この国を良い形で次の時代に残していかなければならないと思っています。ありがとうございました。

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