毎日・世論フォーラム
第312回
平成30年11月1日
自民党憲法改正推進本部顧問 船田 元

テーマ
「憲法改正と国政の課題」

会場:ホテルニューオータニ博多

改憲「首相が方向性 矛盾だ」

船田 元 自民党憲法改正推進本部顧問
船田 元 氏

プロフィール

船田 元
(ふなだ はじめ)

1953年宇都宮市生まれ(64歳)宇都宮高校、慶應義塾大学経済学部に進む。79年衆議院第35回総選挙に最年少の25歳で初当選(12期)、92年経済企画庁長官(39歳最年少の大臣)、98年 自民党総務会長代理、99年同財務委員長、2005年 同憲法調査会会長、13年 衆議院憲法審査会筆頭幹事自民党消費者問題調査会会長 13年 裁判官弾劾裁判所裁判長、14年自民党憲法改正推進本部本部長。祖父は衆議院議長や自民党副総裁、防衛庁長官を務めた元衆議院議員の船田中。父は栃木県知事や参議院議員を務めた船田譲。妻は元NHKアナウンサー、元参議院議員の学校法人作新学院理事長の船田恵氏。

 第312回例会は、自民党憲法改正推進本部顧問の船田元(はじめ)元経済企画庁長官が「憲法改正と国政の課題」と題し講演、会員120人が参加した。船田氏は、安倍晋三首相が目指す憲法改正について「憲法は権力を縛るもので、最高権力者の首相が改憲の方向性を示すのは矛盾だ」と指摘。与野党協調を目指した自身が衆院憲法審査会の自民党幹事から外れたことを踏まえ、「改憲議論が強行的になる可能性がある」と今後の進め方に懸念を示した。また、参院定数を6増する改正公職選挙法を巡り、衆院本会議で採決を棄権したことに言及。「後から誰もついてこず、失望した。自民党内の民主主義が形骸化している」と批判。官僚人事への政治介入が官僚の質の低下につながっているとも指摘した。講演要旨は次の通り。

 まず政局展望だが、安倍1強政治に黄色信号がともり始めていると言わざるを得ない。いくつかの例を挙げてみたい。一つ目は官僚の質が落ちていることがある。森友・加計学園問題など不祥事がいくつか続いたが、背景には官僚人事に政治が介入してきたことがある。昔は政治は2流でも官僚は1流と言われたが、官僚も2流になったのではないか。
 二つ目は自民党内の民主主義が形骸化している。ものを言いにくい状況が生まれているのは明らかだ。私は参院の定数6増法案の採決を棄権したが、あとから誰もついてこなかったことに大変失望した。自民党内では執行部が決めたことにものが言えない状況ができている。ここは直していかないといけない。
 三つ目の例を申し上げると、トップダウンで政策が決まるケースがかなり増えてきた。例えば幼児教育や高等教育の無償化だ。自民党の憲法改正案にも入っているが、これは突然官邸から持ち出され昨年の衆院選の公約になった。働き方改革もだ。もちろん党内である程度は議論したが、途中で官邸がこうすると決めて我々が下書きをする状況になった。
 次に総裁選とその後の動きについて申し上げたい。総裁選では安倍さんが圧倒したが、党員票は安倍さんが55%、石破さんが45%。当初安倍さんの党員票も7割超を目指そうとやっていたが、案外石破さんの票が増えた。安倍さんへの批判票が石破さんに流れたというのは早計かもしれないが、それに近い傾向が出たと思う。
 安倍さんは3年以内で確実に辞める。レームダック状態を防ぐために安倍さんは何をするか。一つが憲法改正の議論を進めること。もう一つが外国人労働者を受け入れる新たな制度を作ることだ。この二つが大きな目玉になると思っている。
 憲法審査会幹事だった私や中谷元さんは野党の意見を重視する。野党の協力を得なければ前に進まない協調派と言われていたが、今回の人事で2人とも見事に外された。そして新藤義孝さん、下村博文さんが選ばれた。この二人は安倍総理に非常に近い方だ。官邸から急げと指令が出れば、彼らは側近だからその通りにやっていかないといけないだろう。
 今後の憲法審査会での議論、特に憲法の幹事会での動きが少し強硬的になってしまうのかがちょっと心配だ。その点を注視しないといけないが、我々は幹事を外れたからといって足を引っ張ることは一切しない。むしろ憲法改正が良い形で実現できるように彼らを後押ししていきたい。
 次にもう一つのテーマ、憲法改正の今後の道筋について少し話をする。一つは総理大臣と憲法改正の関係だ。憲法は権力を縛るものである、これが立憲主義の原則だ。一方で日本の最大権力者は総理大臣だ。だから最大の権力者である総理大臣が憲法改正について方向性を示すということは矛盾している。総理大臣として憲法改正の議論をするということは、自ずからそこには自重というか、遠慮というものがあってしかるべきではないか。
 もちろん安倍総理は自民党総裁でもある。総理大臣と自民党総裁とは不離不即の関係にある。どうしてもそこには矛盾が生じてしまう。安倍総理はそういう点で悩んでいると思う。自民党総裁としてものは言いたいが、総理大臣として憲法改正のことを言うのは本当はやめないといけないんじゃないか。その葛藤を彼は心の中で繰り返してきたと思う。
 自民党の改憲項目の一つには、9条に自衛隊を明記することがある。二つ目には教育の無償化。三つ目は緊急事態に対する対応。そして四つ目にあるのが参院の合区解消だ。臨時国会ではこの自民党の改憲案を説明したいが、野党の皆さんが大変反対しているため臨時国会中にできるかどうか難しいところだ。しかし、少なくとも自民党案を説明し、俺たちはこう思うんだということを堂々と憲法審査会の場で発表し、お互いに各党の案を持ち寄って吟味をしていくという姿に何とかしてもっていきたい。
 来年の1月下旬には通常国会が始まるだろうが、そこでもこの議論を続けていきたい。そして、できれば通常国会が終わる頃に国会の3分の2以上の賛成を得て国会発議をしたい。しかし、国民投票で有効票の過半数の賛成を得ることは非常に難しいと思う。国民投票の結果次第で政権が飛ぶことも考えられるので、慎重にも慎重を期して対応しないといけない。私としては憲法改正に向けて裏側から、外側から一生懸命後押ししていきたい。

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