毎日・世論フォーラム
第293回
平成28年12月15日
毎日新聞特別編集委員 岸井 成格

テーマ
「急展開する外交と政局の行方」

会場:ソラリア西鉄ホテル

日露会談
「北方領土問題、後退した」

岸井 成格 毎日新聞特別編集委員
岸井 成格 氏

プロフィール

岸井 成格
(きしい しげただ)

1944年9月、東京都出身の72歳。67年、慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社入社。記者生活の振り出しは熊本支局。70年に政治部に移った。同部では、首相官邸、文部省(現・文部科学省)、防衛庁(現・防衛省)、外務省、自民党、野党クラブなどを回った。新聞・雑誌のコラム、対談のほか、テレビ・ラジオでも活躍している。13年4月からTBSテレビ『NEWS23』のアンカーに。今年3月末まで務める。 現在はTBSテレビスペシャルコメンテーターとして『サンデーモーニング』、『Nスタ』など出演中。

 第293回例会は、毎日新聞の岸井成格・特別編集委員が「急展開する外交と政局の行方」と題し講演、会員160人が参加した。岸井氏は、日露首脳会談の成果について「一番期待された領土問題で、全く進展が無かっただけではなく後退した」と語った。日本の経済協力を引き出したロシアのプーチン大統領が、対露経済制裁包囲網の一角を崩したと分析。会談前、ロシアが北方領土に新型ミサイルを配備したことなどから「『北方領土はロシア領で軍事拠点として重要だ』と世界に示す会談になってしまった」と述べた。また、衆院解散・総選挙については「安倍晋三首相はやりたいという気持ちが強いが、日露首脳会談を受けたクリスマス解散はしぼんだ」との見方を示した。講演要旨は次の通り。

 これだけ外交、内政を含めて急展開する時期は中々ない。単なる激動、転換ではなく、時代が大きく変わるのではという予感もある。ここ1カ月半では、アメリカ大統領選でドナルド・トランプさんが当選した。全世界のメディアが予想を間違えただけでなく、時代の変化も感じる選挙だった。トランプさんは毎日ツイッターで、ヒラリー・クリントンさんがいかに悪人かつぶやいた。SNSを駆使した選挙を徹底した大統領選は初めてではないか。これから全世界に広がるかもしれない。
 もう一点、気になった動きは日露首脳会談だ。安倍晋三首相は地元・山口にプーチン大統領を迎えたが、一番期待された領土問題は、進展が無かっただけではなくて相当に後退した。プーチンさんは「領土問題は存在しない」との立ち場を最後まで崩さず、合意したのは極東シベリアでロシアの開発に日本が協力することだけ。他にもオスプレイの不時着と大破や、IR法案の問題などが重なり、早期の解散総選挙は遠のいたと判断せざるを得ない。
 一方、2017年の欧州は「トランプ現象」で大きく動かされるだろう。トランプさんはポピュリズム、つまり国民の感情に訴える人が一番票を集めることを実証した。各国で国民世論が右傾化し、極右政党や勢力が議席を伸ばしている。来年は春のフランス大統領選をはじめ、オランダやドイツで総選挙がある。下手をするとトランプ型ポピュリズムや、極右的な政党が躍進する「不寛容の時代」に入るかもしれない。
 隣の韓国も忘れてはいけない。朴槿恵大統領は弾劾が通って職務が停止された。どこかで辞任せざるを得ないのではないか。だが、次に誰がなるかは混沌としており、混乱が続くことになる。これは日本の安全保障にとって重要だ。なぜなら、アジア太平洋地域の日本の安全保障の基軸は、日米、米韓、米比など、アメリカを中心とした同盟関係だ。そのアメリカがトランプ大統領となり、韓国は大統領が職務停止。そしてフィリピンのドゥテルテ大統領は過激発言を繰り返し、中国にぐっと寄っている。日本の安全保障の基本構造が根本で揺れている。アジア太平洋の安全保障に空白ができかねない。
 政局について触れておく必要がある。7月の参院選で与党が圧勝した結果、衆参両院で戦後初めて改憲勢力が議席の3分の2を得た。やろうと思えば、いつでも改憲を発議し、国民投票にかけられるようになった。圧勝を受け、自民党は総裁任期を今の2期6年から3期9年まで延ばすと決めた。安倍さんがそのまま強ければ、明治維新以来、憲政史上最長の長期政権も可能という足場を築いた。もう一つ、改憲に密接に絡む話としては、天皇陛下が生前退位についてビデオレターで国民に直接訴えた。政府は何らかの方策を決めなければならず、それまで憲法改正は受け付けないだろう。憲法論議にブレーキがかかり、改憲の流れは遅れることになる。
 また、小池百合子都知事と(17年7月の)都議選からも目が離せない。都議会公明党は自民党と決別し、他の野党も乗ったので、小池与党VS都議会自民党の形となる。おそらく惨敗を恐れ自民からどんどん小池さん側に流れるのではないか。小池さんは18年の自民党総裁選に出馬するつもりだ。だから自民党籍を抜かずに状況を見ている。うまくいかなければ新党を作り総理を狙う。小池さんの軌跡を見ると、小沢一郎さんと歩みを共にし、その後は小泉純一郎さんの懐刀となった。新党や敵を作り徹底的に戦うのは小沢流。小池さんが時々言う「アンシャンレジーム(旧体制)」は、小沢さんの守旧派たたきだ。そして、敵を明確にしてたたくのは、「自民党をぶっ壊す」と言って自民党総裁になった小泉流。いろいろな政治手法のうち、当時の国民の気持ちをつかんだ部分を良く学び、見事に使っている。今の都議会の動きは必ず国政に影響してくるだろう。

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