毎日・世論フォーラム
第268回
平成26年9月26日
元総務大臣 増田 寛也

テーマ
「ストップ少子化・地方元気戦略」

会場:西鉄グランドホテル

東京一極集中 見直しが必要

増田 寛也 元総務大臣
増田 寛也 氏

プロフィール

増田 寛也
(ますだ ひろや)

1951年12月、東京都出身の62歳。77年3月、東京大学法学部卒業。同年建設省入省 岩手県知事、総務大臣を歴任。09年より野村総合研究所顧問。今年5月、「2040年、若年女性半減 896自治体、消滅の恐れ」の衝撃的な報告とともに、高齢者を優遇しがちな社会保障制度を改め、子どもの多い世帯を支援するなどの少子化対策を提言している。

 第268回例会は、人口減少により全国の自治体の半数が消滅する可能性を指摘した増田寛也元総務相が講演、会員160名が参加した。人口減少対策について「市町村ごとに人口減少の要因を分析して処方箋(せん)をつくっていく必要がある」と述べた。人口減少の要因について、20~39歳の若年女性の減少と、地方から東京圏への若者の流出の2点を挙げ「自治体だけの努力ではこの問題を解決できない。国が責任を持って東京一極集中をどうするか考え直さなければならない。まさに国土政策が問われる」と指摘した。
 また、地方で検討すべき対策の方向性として「地域にいかに働く場をつくるかだ。地方それぞれに拠点都市をつくり、そこを中心にしたネットワークで経済を回していくしかない」との考えを示した。その上で「九州内のつながりを強化し、司令塔として福岡の機能が高まるといい。九州はアジアに近くポテンシャルがある」と語った。講演要旨は次の通り。

 人口減少問題について国民のみなさまに考えて欲しいと思い、5月に日本創成会議が人口減少の具体的な数字を発表しました。個別市町村ごとに、特に20代、30代の女性が30年後に何人になるかを示した。あちこちで議論が深まって意味があったと思っている。私が人口問題で危機感を持ったのは岩手県知事時代。1995年から3期12年務めたが、驚くほど小学校の統廃合が進んだ。成人式も県の沿岸部では成人より来賓の方が多く、20年、30年たったら地域はどうなるのかとの思いを深くしました。
 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2010年の国勢調査を2年半かけて加工して、昨年3月に全国の市町村の将来人口推計を出しました。日本創成会議が発表したのは、このデータを一部修正したものです。人口推計は二つの要素がある。そこで生まれ育った子供たちの数と、生まれ育った場所から移っていく社会移動の数。社人研は地方から東京への一極集中が止むという前提だったが、そこは実績と違っている。東京は常に推計より増え、地方がもっと減っている。地方から東京への社会移動は続いていて、東日本大震災で東京に移る人が減ったとされたが、昨年からまたどんどん東京へ来ている。そのため東京はそれほど減らずに、地方や過疎地域がもっと減るのではないかと推計をやり直した。
 驚くなかれ、全国で半分の896自治体が2040年に消滅可能性のある都市となった。消滅可能性というのは持続可能性の反対の言葉。人口減少は20~39歳の若年女性が減るのが要因です。子供の95%はこの年代から生まれる。母親の数が激減すれば、将来の人口は見えてくる。
 また、地方から東京への若者流出も要因となる。東京一極集中の問題を人口減少に絡めたのは新しい視点だと思います。自治体の努力だけでこの問題は解決できず、国が責任を持って考え直さないといけない。まさに国土政策が問われている。一極集中に歯止めをかけつつ、発展を導くことが求められている。消滅可能性都市を避けるには少子化対策だけでは間に合わず、社会移動もストップさせないといけない。推計では10年からの30年間で全国の多くの自治体で20代~30代の女性が5割以下に減る。ここまで減った上で人口を維持するには、直ちに合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均数)を2・8~2・9にしないといけないが、日本の今の出生率は1・43で現実的ではない。
 出生率が高い九州各県は消滅可能性都市の割合がもっと低くていいはずだが、宮崎県内は消滅可能性都市の割合が6割近くに上っている。交通網の関係で宮崎県の若者は福岡に来ず、東京にダイレクトに出ている。一方で熊本、鹿児島は福岡とのつながりが強い。宮崎を含む九州圏内でのつながりを強化し、福岡市の司令塔機能を高めていけばいい。
 一方、東京の出生率は1・13。東京でも少子化対策をやっているが、出生率は上がらない。その東京に戦後一貫して就職や大学進学で地方から若者が入っている。東京五輪がある2020年にかけてさらにこの傾向が強くなる。しかし、2040年の東京は75歳の高齢者が今の2倍になる。生産年齢人口は6割に低下する。東京都内で今現在、施設に入れない待機介護高齢者が4万3000人いる。介護が回らない。東京で豊かな老後は望めない。半面、九州南部や東北などは医療介護に余力が生まれてくる。東京の人たちは真剣に移住を考えるべきだ。
 人口減少の対策は、市町村ごとに人口減少の要因を分析して考えていかなければならない。市町村ごとの処方箋が必要だ。問題はいかに働く場を地域に作っていくかになる。地方のそれぞれに拠点都市を作り、そこを中心としたネットワークで経済を回していくしかない。
 「東京が一番いいんだ」という我々の価値観を切り替えることも必要だ。そこにちゃんと目が向いた時、ゴールが近づいてくる。九州はアジアに近くてポテンシャルがあり、もっと一体感を持ってやってほしい。人口問題について悲観することなく、反転攻勢のきっかけにしてほしい。

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