毎日・世論フォーラム
第261回 新春講演会
平成26年1月24日
毎日新聞特別編集委員 岸井 成格

テーマ
「2014年を占う、安倍内閣と政局の行方」

会場:ホテルニューオータニ博多

「歴史認識慎重に」岸井氏が講演

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岸井 成格 毎日新聞特別編集委員
岸井 成格 氏

プロフィール

岸井 成格
(きしい しげただ)

1944年9月、東京都出身の69歳。67年慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社入社。熊本支局、政治部、首相官邸、外務省、自民党、野党クラブなどを回った。ワシントン特派員、論説委員を経て、94年政治部長。10年主筆、昨年から現職。TBS『サンデーモーニング』のレギュラーコメンテーター、昨年からTBS『NEWS23」のアンカーを務める。

 261回例会は、毎日新聞の岸井成格特別編集委員が「2014年を占う~安倍内閣と政局の行方」と題して講演した。1月例会は新春講演・賀詞交歓会として行われ会員250人が参加した。岸井氏は安倍晋三首相の靖国神社参拝などを例に挙げ「歴史認識問題で慎重にならないと思わぬ結果を招く」と述べた。また、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を一定評価する一方、特定秘密保護法についても「非常に問題が多い」と述べ「安倍カラーの中に国家観、歴史観からくる危うさがある」と指摘した。講演要旨は次の通り。

 安倍政権は今のところ非常に順調だ。衆参の選挙で自公は勝利し、民主は惨敗した。巨大与党となり、1強8弱となった。野党再編をしなければならないことはみんなわかっているが、誰が党首になるか。細川護熙氏が都知事選で当選すれば新党結成につながるかもしれないが、今は首相自身が「怖いぐらいについている」と言っているぐらいだ。 第一次安倍政権の時は、消えた年金問題、舌禍事件などにより参院選で惨敗し、体を壊して退陣を余儀なくされた。第二次安倍政権ではアベノミクスを実行し、富士山の世界遺産登録、東京五輪と続いている。アベノミクスが成功すれば大きな転換となる。失われた20年を取り返すことになるかもしれない。
 失われた20年は、毎年首相が代わっていることだ。この20年で15人代わっている。デフレ不況、超円高、株安債権安の三重苦でもあったからだ。ただ、今のままなら3年は国政選挙はない。2年後のダブル選の可能性が高いかもしれないが、政権は安定している。春の消費増税を乗り切れるかだが、乗り切れば、失われた20年も乗り切れるだろう。しかし、「安倍カラー」と言われる歴史観、国家観が気になる。危うさを感じる。安倍首相には私は2回、政権が倒れる時は歴史認識だと思うと言った。首相は反論したが、今もそうだと思っている。
 安倍首相は靖国を突然参拝した。予想通り、中国、韓国が反発した。米国は首相の参拝前に千鳥ヶ淵に参拝するよう示唆していたが、靖国参拝を強行したから失望したようだ。首相は村山談話、河野談話をどうするつもりなのか。政教分離の憲法の問題もある。
 靖国参拝が問題なのは、靖国がA級戦犯を祭っていることもある。しかし、神社としては「分祀はできない」という。合祀した以上、もう分けることはできないという考えだ。遺族会の会長だった古賀誠さんまでが分祀論を言い出しているが難しいだろう。靖国は外交をストップさせかねない。今後、一番やっかいな問題になるのではないかと思う。安倍首相は戦後レジームからの脱却とよく言う。まずは集団的自衛権の行使、武器輸出三原則の見直しを言い出した。そして、日本版NSCの設立、特定秘密保護法の強行採決もした。米国との軍事行動や武器輸出が、特定秘密保護法の目的なのだろう。特定秘密保護法は、既に廃案になったテロ特措法、スパイ防止法まで取り込んでいる法律だ。何を秘密にしているのかも秘密にするというこんないいかげんでずさんな法律は見たことがない。
 安倍首相が言うように、日本の安保環境は大きく変わったとは思う。北朝鮮はミサイルを飛ばし、核保有のうわさもある。このミサイルをどうやって打ち落とすのか。米国に向かって打たれたものを打ち落としてくれと言われたら打ち落とすのが集団的自衛権の行使だ。尖閣に中国正規軍が上陸したら、今のままでは海保が水をかけるしかない、だから日本版海兵隊創設の動きにつながる。だが、これでは抑止論はどんどんエスカレートするばかりだ。果たしてそれでいいのだろうか。
 北方領土、尖閣諸島、竹島は、確かに歴史上も国際法上も日本の領土だ。しかし、ロシア、中国、韓国にしてみれば違う。これは非常に難しい問題だ。今までは外交上の知恵で棚上げしてきた問題なのだが。安倍首相は名護市長選、南相馬市長選で負けた。消費増税がある今春は政権にとって正念場になるだろう。

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