毎日・世論フォーラム
第299回
平成29年7月10日
元防衛大臣 小野寺 五典

テーマ
「日本の防衛を考える」

会場:ソラリア西鉄ホテル

敵基地攻撃能力 元防衛相「必要」

小野寺 五典 元ラグビー日本代表
小野寺 五典 氏

プロフィール

小野寺 五典
(おのでら いつのり)

1960年5月宮城県気仙沼市生まれ57歳。東京水産大学水産学部海洋環境工学科(現東京海洋大学海洋科学部)卒業。83年宮城県庁に入庁。90年、宮城県庁を退職し、松下政経塾に入塾。93年、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了97年衆議院宮城6区で初当選し、現在6期目。防衛大臣、外務大臣政務官、外務副大臣、衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員長、自民党宮城県連会長などを歴任。現在は自民党政務調査会長代理、衆議院東日本大震災復興特別委員会委員など

 第299回例会は、小野寺五典元防衛相が「日本の防衛について」をテーマに講演し、会員150名が参加した。小野寺氏は、北朝鮮を想定したミサイル防衛について「撃つ前、撃った直後に落とせれば確実で抑止力にもなる」と述べ、敵基地攻撃能力を保有すべきだと主張した。小野寺氏は「北朝鮮のミサイルはここ数年で進歩しており、新たなミサイル防衛と装備が必要だ」と強調。攻撃を防ぐための敵基地攻撃は合憲との認識を示した上で「相手の領土でも(ミサイルを)無力化して攻撃させない能力を持つことが大事だ」と述べた。講演要旨は次の通り。

 今日は、約2年間防衛大臣をさせていただいた時の経験を踏まえてミサイル防衛と北朝鮮の対応についてお話をさせていただきたい。
 日本の自衛隊は戦後一貫して来るものは撃ち払う。けれども相手の領土まで届くような武器、槍は持たない、ということでずっと防衛装備をしてきた。相手を無力化して攻撃してくれるのは米軍ということになるので、米軍がいないと日本の安全保障は保てない。これが今までの基本的な考えだった。
 だが、アメリカは日本を同盟国として絶対守らなければアメリカの安全保障上、決定的な問題になると考えるだろうか。日米関係は盾と矛の関係で、それが日本の安全保障の基本だ。この関係でずっと日本を守ってきたが、それも今少しずつ変容しなければいけない状況がある。
 北朝鮮のミサイル技術は格段に進歩した。今の北朝鮮はどこからいつ撃つか分からない。安全保障のことを考えたら、今世界で一番緊張感があるのは日本だ。日本はこの現実に、そろそろ目を向けて考えなければならない。日米同盟、日本の平和憲法、それだけで見たくない現実に目を反らしていないか。
 日本を攻撃するミサイルをどこで撃ち落とすのが簡単か。一番お金がかからなくて確実に落とせるのは発射する前だ。次に撃ち落としやすいのは、発射した直後。発射する前、あるいはブーストペースで撃ち落とすと、積んでいる化学兵器、積んでいる核爆弾がどこに落ちるかと言うと、北朝鮮の領土内に落ちる。とすれば、撃つ前、撃った直後、ここを叩くのが能力的にも効率は一番いい。北朝鮮領土内に落ちるとすれば、北朝鮮がこれに化学兵器を乗せたら、むしろ自分の国がやられる。抑止力になる。ここで落とせるとしたら。
 じゃあ自衛隊はこのミサイルを落とせるのか。その能力を自衛隊は持てない。なぜかというと専守防衛だからだ。相手の領土まで届く装備を持ってはいけない。でも攻撃するものは、同じミサイルだ。これを食い止める一番効率的で、効果的で、抑止力があるところで食い止めるのは、軍事的な合理性からいったら一番良い。ところが専守防衛という考え方、この能力を持たないということにすると、ほとんど神業に近いところでしか、しかもものすごいお金がかかるところでしか対応できない。本当にこれでいいのか。
 相手の国の領土にあるこのミサイルを攻撃することは憲法上は許される。昭和31年に憲法違反ではないと政府は見解を出している。政治的な意思として、日本は専守防衛という考えがあるので、これをずっと自衛隊は持たない。持たせないようにしてきた。
 専守防衛は今でも変わらない。変わったのは日本への攻撃の仕方だ。相手の能力と相手の攻撃の仕方が変わった。だとすればそれに合わせて日本を守れるような体制にむしろ考えを変えていかないと、この国は守れない。例え相手の領土にあったとしても、そこを無力化して日本を攻撃させない。この能力を持つことは大事だと思う。国会答弁ではこれをアメリカがやってくれる。こう言うわけだ。
 確かに日米の同盟関係の中で日本の防衛義務はある。でもそれはアメリカの国内手続きに従って行われる。更に米軍の主力のハワイとグアムの基地からかなり距離もある。そういう意味で、日本にどんどん降るミサイルを次々と食い止める能力は、アメリカだけでなく日本も同時に持って対抗しなければいけないのではないか。それが専守防衛なのではないか。そういう思いを持って、今回この能力を日本は持つべきだと総理に提案した。
 だが残念ながら、報道で書かれる内容は「敵基地を攻撃能力」と表題になってしまう。確かにそうだ。ミサイル基地を攻撃するわけだから敵基地攻撃能力となる。ただ、日本を攻撃するミサイルを食い止めるのに一番確実で、抑止力のあるやり方をする。それが一番軍事的な合理性だ。憲法上も許される。あとは政治が判断をし、国民の皆さんに理解をしていただいて、そろそろ考えを変えていただくこと。これが今の安全保障の置かれた状況の中、必要な考え方だと思っている。
 1発撃ったら、2発目は絶対に撃たせない。そのための能力を持つべきだ。一番確実なのは撃ってくる相手のところを叩いて、2発目を撃たせないようにする。これが重要だ。日本がこれからも抑止力を高めるためには、日本としてこの能力を持つ。同じミサイルを無力化するための効率的な能力を持つ。その議論を正面から、国会の中で議論していく、そういう時期だと思っている。

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