毎日・世論フォーラム
第272回 新春講演会
平成27年1月23日
毎日新聞特別編集委員 岸井 成格

テーマ
「2015年 政局を占う」

会場:ホテルニューオータニ博多

戦後70年首相総括「中韓警戒」

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岸井 成格 毎日新聞特別編集委員
岸井 成格 氏

プロフィール

岸井 成格
(きしい しげただ)

1944年9月、東京都出身の70歳。67年慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社入社。熊本支局、政治部、首相官邸、外務省、自民党、野党クラブなどを回った。ワシントン特派員、論説委員を経て、94年政治部長。10年主筆、昨年から現職。TBS『サンデーモーニング』のレギュラーコメンテーター、昨年からTBS『NEWS23」のアンカーを務める。

 272回例会は、毎日新聞の岸井成格特別編集委員が「2015年 政局を占う」と題して講演、1月例会は新春講演・賀詞交歓会として行われ会員250人が参加した。
 岸井氏は、安倍晋三首相が今夏発表予定の新談話について「侵略と植民地について謝罪した村山談話と慰安婦について謝罪した河野談話をどうするか。戦後70年の節目の中で一番大きな政権の仕事になる」と述べた。今夏の安倍談話について「中国、韓国がものすごく警戒している」とし、「歴史認識問題は思わぬことで感情の対立になる。気を付けなければいけない」と指摘。さらに、今年は米軍普天間飛行場の移設問題や集団的自衛権などの重要課題が山積していることから「いずれも内閣支持率に直結するテーマ。ハンドリングを少しでも間違えば内閣は追い詰められる。これらを乗り切れば安倍首相は強運といえるかもしれない」と語った。講演要旨は次の通り。

 今年は戦後70年の節目です。偶然ですが、たくさんの節目が重なりました。1955年に保守、革新という日本の戦後政治の枠組みができた。その55年体制からちょうど60年です。また、日韓国交正常化から50年。これを契機に沖縄返還と日中国交正常化の動きが水面下で始まった。20年前には阪神大震災とオウム真理教による地下鉄サリン事件がありました。そしてこの年、まさに戦後50年を期して村山富市首相の村山談話が出されました。村山談話は自社さ政権の時です。自民党の保守派からいうと「50年を記念して談話を出したのはいいが、あれは特殊な政権だ。社会党の委員長が首相として出して、社会党の歴史観が非常に色濃く出ている」となる。しかも、当時の自民党総裁は、保守本流から見れば異端の人だった河野洋平さんで、その前には官房長官として慰安婦問題で談話を出している。異端の首相と異端の自民党総裁が出した談話は問題だよ、ということで反対の急先鋒だったのが安倍さんだった。中堅、若手を代表して異議を唱えた。「あんな談話は認められない」「自虐史観そのものだ」と。それで、憲法と談話を一緒に変えないと、日本はいつまでも辱めを受けることになるので、きちっとやりましょうとしたんです。
 第1次安倍内閣の時、安倍さんは「侵略という言葉は定着していますか? 国際法上、何も定着していないんじゃないですか?」と言われました。村山談話はご存知の通り、侵略と植民地化について謝罪している。河野談話は慰安婦について謝罪しています。今年8月15日に安倍談話を発表したいとしているが、これをどうするのか。さまざまな節目のうち、安倍政権にとってこの談話の作成は一番大きな仕事になるかもしれません。
 当然、中国や韓国は非常に警戒している。村山、河野の両談話を継承するか水面下でけん制してきている。米国も非常に警戒している。米議会の調査局は報告書で、歴史を変えるようなことや近隣外交がおかしくなるようなことは避けてもらいたいと注文している。そして、やっかいなのはそこにロシアも入ってきて、中国、韓国と一緒に9月3日に対日戦勝記念をやろうと言い出した。なんで9月3日なのか。終戦記念日が8月15日だと、北方領土を終戦後のどさくさに紛れて持って行ったという日本の主張が正しいことになる。ロシアから言わせれば、8月15日で戦争は終わっていない。本当に終わったのは9月2日に日本が降伏文書に署名した日だと言いたいんでしょう。それになんで中国、韓国が同調したのか。これが歴史認識問題の一番難しいところですよ。
 日本は植民地化された国民の気持ちがなかなか分からない。ある種、にぶいところがある。ここを絶対に気をつけなきゃいけない。歴史認識問題というのは、国民感情や歴史観を踏まえてきちんと対応しないと、思わぬところで火種になり、収拾がつかなくなる。
 そこで安倍談話をどうするか。安倍首相は三つの要素を盛り込むことを明確にしました。一つは先の大戦への反省を述べる。何を反省するのか、村山談話みたいに具体的に侵略、植民地化ということを言うかどうかです。抽象的に「ご迷惑をかけました」では納得されないでしょう。二つ目は戦後の日本の平和国家としての歩みを強調する。そして三つ目が一番の問題です。米国をはじめ各国が気にしている「未来志向の積極的平和主義への貢献」です。間違いなく安倍内閣の積極的平和主義には、集団的自衛権の行使容認と武器輸出解禁がある。
 私はこの3要件はいいと思っているが、先ほどから話しているような国際環境の中、安倍首相自身が「未来志向の」を出してきたらどうなるか。大きな問題になる可能性がある。首相としては「手に負えない」と思いだしたのでしょう。首相自身で談話を書くつもりだったが、有識者会議を作りたいと言い出した。戦後70年の節目をどう考えるかという非常に重要な談話になる。どこまで日本人の魂を込められるか。一方で外交的な配慮をしないといけない。
 安倍内閣、大変です。昨年12月の衆院解散・総選挙は確かにうまくいった。首相は「つきすぎている」という言い方を私にされました。第1次安倍内閣とはまったく違う。けれど今年は、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題、特定秘密保護法、武器輸出解禁、そして安倍談話と大きな課題が目白押しです。内閣支持率に直結するテーマばかりで、少しでもハンドリングを間違えたら一気に内閣が追い詰められる。いくら野党が弱いと言っても、一寸先は闇です。こんなに濃密な課題を抱えるのは歴代内閣でもない。これらを本当に乗り切れたら、首相が言われる通り「ついている」、強運だと言えるかもしれません。

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